2012年6月1日金曜日

老いの心理学

「私たちは老いについて見て見ぬふりをする。自殺者の統計では高齢者が圧倒的である。社会的定年を迎えると、あとは下り坂でその終わりは死であるというのが通俗的な人生観である。体力は衰え、記憶は薄らぎ、人間関係は縮小していく。そして孤立と孤独・社会的孤立の難問へ・・・。」

この本によれば、老いには「下り」ではなく、「上り」であるといっています。私はこの本を読んで、普段のリハビリテーション医療を実施していくなか、対象者を「下り」目線で行っていように思えてきました。対象者の本当の訴えを聞かず、こちらからの一方的な考え方で目標を設定してしまう。回復期リハビリテーションに求められる自宅退院を目的に、ポータブルトイレの使用、必ず家族の監視のもとでの生活、通所サービスの利用・・・。対象者は、自分の訴えを述べる間もなく、残りの人生の道筋を周囲から強制的に決められてしまう。

この本の「上り」についてこう述べています。
「米国の老人クラブでは、楽しそうに学習会を開いていた。テーマはなんと遺書の書き方。死の準備さえ人格的成長の一貫として捉えていた。」
「寝たきりの高齢者が、この次には世話をする人に生まれ変わりたいと言い遺した。」
「ひとりは孤独として捉えるのではなく、今までずっと縛られてきたわずらわしさから解放された喜び、ゆとりを受けとめる。なかにはまるで殿様の気分と言う高齢者がいる。ひとりの生活形態を重んじ、これを支える医療と福祉を充実させることである。」

リハビリテーションは、単純に機能をよくすることや在宅医療を目指すことでなく(だけでなく)、ひとりの人が思う「自立」を目指しながら終わりをまっとうする援助であること。それが大切だと思いました。
人間は生まれた瞬間から死へ向かって歩き続けると言われています。その人らしい上り坂を切り開く意志と努力を引き出していく人間が求められる気がしました。死を人生の頂点にできるかが、私たち一人ひとりに問われる課題であると述べています。




在宅へ帰る予定の患者さんが、実は施設にいきたいとこっそり私に問いかけてくれた患者さんがいました。在宅へ帰るために必要な歩行やトイレ動作を、一方的に押し付けている自分がとても無力に感じた瞬間でした。私にとっての作業療法士の位置づけは、ますますわからないものになっています。この本を読んで、また新たな課題を頂いたような気がします。

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